時代小説「ひこま豚ひこ左衛門」第四章

第4章/時代の変化の中で

 

しかしその翌年、坂本龍馬が中岡慎太郎とともに殺害されるという知らせが飛び込んでくる。怒りと悲しみで顔を真っ赤に腫らせたひこ左衛門には、たまでさえかける言葉がなかったという。

翌慶応4年(1868年)4月、江戸城は無血開城され、同年9月、明治元年へと改元されることとなった。しかしそれは新たな騒動の火種となった。
旧幕府軍を率いる榎本武揚、土方歳三らが森町鷲の木から蝦夷地へ上陸し、五稜郭を占拠するという事件が勃発。ここで激戦が展開されると読んだひこ左衛門は村人を避難させるとともに、榎本らに時代の変化と新政府への協力を説いたといわれている。
その一方、自慢の豚肉を与え、彼らの士気を高めたともいわれており、新政府からも旧幕府軍からも感謝を得るに至る。優柔不断さが初めて評価された瞬間だった。

明治2年(1869年)、蝦夷地は北海道と改称され、ひこ左衛門も40歳を迎えた。その後、ひこ左衛門の名前が歴史の表舞台に出ることはなかったが、後にたまが語った回想録によれば、
「相変わらず優柔不断な人だったけれど、私はとても幸せだった」とのことである。

武士の時代から明治へ。
激動の幕末、養豚業で名をあげたひこ左衛門は、今や森町はもちろん、道南では伝説の武士として語り継がれている。…「完」

 
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